第6話 通勤の途中に見上げた空

駅へ向かう道すがら、
空を見上げる。
まだ朝の光は柔らかく、雲がゆっくりと流れている。
ビルの谷間に差し込む光が、
歩く足元に小さな影を落としていた。

人々が行き交う中で、
ふと空に目をやる瞬間は、
一日の中でほんのわずかな自由の時間のように感じられる。

電車の音、靴音、遠くの車のエンジン。
街のざわめきの中に、
空の青さだけが静かに広がっている。
それを見るだけで、
心が少しずつほぐれていくのを感じる。

空は毎日同じ色ではない。
晴れの日もあれば、雲が多い日もある。
朝焼けの赤、雨を呼ぶグレー、
それぞれの色に、一日の気分が少しずつ重なる。

忙しさに追われていても、
ほんの数秒、空を見上げるだけで、
「今日も生きている」と実感できる。
それは、どんな朝のルーティンよりも確かなリセットの時間。

深呼吸をひとつ。
吸い込んだ空気の中に、
新しい日が少しずつ溶け込んでいく。

――通勤の途中に見上げた空は、
今日という日を始める小さな合図だった。

小さな自由と、少しの希望を胸に、
私は駅へと歩を進める。

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