窓の外から、かすかな音が聞こえた。
トン、トン、と屋根を叩くリズム。
朝の空気の中で、それはまるで小さな音楽隊のようだった。
目を覚ますと、外は薄い灰色の光に包まれていた。
少し冷たい空気。
カーテンの隙間から見える雫の列が、
一定のリズムで静かに踊っている。
カップにお湯を注ぐ音と、
窓を打つ雨の音が重なる。
まるで朝だけに許された小さな演奏会のようで、
私はその音たちに耳を傾ける。
傘の上で軽く跳ねる音、
道の水たまりに落ちる柔らかな音、
遠くで車が水を切る音。
それぞれが違う楽器のように響いて、
外の世界を静かに満たしていく。
不思議と、心は穏やかだった。
晴れの日の明るさとは違う、
“曇りの日だけの優しさ”がそこにある。
焦らずに過ごしていいよと、
雨がそっと教えてくれている気がした。
朝の時間は、いつもよりゆっくり流れていく。
カップを両手で包みながら、
雨音のリズムに呼吸を合わせる。
それだけで、少しだけ世界と仲良くなれたような気がした。
外へ出ることのない静かな朝。
けれど、耳を澄ませばこんなにも豊かな音がある。
今日という日も、静かに始まっていく。
――小雨の小さな音楽隊が奏でる旋律を、
心の奥でそっと口ずさみながら。


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