日々、楽し、とことこと這う その(9)

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🚶‍♀️ 第9話 散歩の途中で見つけた小さな風景

昼下がりの風が、少しやわらかく感じられた日。
思い立って、スマホも持たずに外に出た。
行き先は決めない。
ただ歩いてみたくなったのだ。

歩き始めると、
いつも通る道にも“知らなかった景色”がたくさんあることに気づく。
道端に咲いた小さな花、
古い家の塀に映る影、
どこからか聞こえてくる子どもの笑い声。

風が頬をなでるたび、
胸の奥のざわめきが少しずつほどけていく。
歩くという行為は、
まるで心のほこりを落としていくようなものだと思う。

途中の公園のベンチで立ち止まる。
木漏れ日の下、
コーヒーの香りと風の音。
特別なことは何もないのに、
世界が少しやさしく見えた。

散歩をしていると、
「気づく力」が少しずつ戻ってくる。
花の色の濃さ、
風の温度、
誰かが笑ってすれ違う瞬間。
そんな小さなことに、
ちゃんと心が反応してくれる。

遠くまで行かなくても、
日常の中には“旅”がある。
歩くことで見えてくる世界は、
いつもより少し穏やかで、
いつもより少し自分に優しい。

帰り道、
空を見上げると、雲がゆっくりと形を変えていた。
それを眺めながら、
「今日という日も悪くなかったな」と思う。

――散歩の途中で見つけたのは、
風景ではなく、自分の中の静けさだったのかもしれない。

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