🍽️ 第8話 お気に入りの布と器で整える食卓
夕方、キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。
今日のごはんは、いつもより少しだけ丁寧に盛りつけたい気分だった。
お気に入りのリネンのクロスをテーブルに広げる。
柔らかなシワと自然な風合いが、
部屋の空気を一瞬で“くつろぎ”に変えてくれる。
食器棚を開ける。
真っ白なプレート、少し青みがかった器、
陶器のマグ。
どれも少しずつ違う形をしていて、
どれも自分の手に馴染む。
お気に入りの器を選ぶ時間は、
料理をすることと同じくらい楽しい。
その日の気分や天気に合わせて、
「どの器で食べよう」と考えるだけで、
心が少し整っていく。
料理を盛りつける。
スープの湯気が立ちのぼり、
野菜の色が布の上に映える。
器の中にあるのは、ただのごはん。
けれど、布と器と光が揃うだけで、
まるで“今日を祝う小さな食卓”になる。
誰かのために整えるのもいいけれど、
自分のために整えるのも、もっといい。
「これが好き」「この感じが落ち着く」
そう思える瞬間があるだけで、
一日の疲れがふっと溶けていく。
食べ終えたあと、
器を洗いながら見上げた窓の外には、
夕暮れのオレンジが残っていた。
今日もこの小さなテーブルの上に、
やさしい時間が灯っていたんだと思う。
――食卓を整えることは、
自分の心を整えることなのかもしれない。


コメントを残す