🌙 最終話 今日という日を、やさしく閉じるために
夜。
窓の外には、静かな街の灯り。
一日の終わりに、私は深く息を吸い込む。
少し冷たくなった空気が、
今日という日の輪郭をやさしくなぞっていく。
部屋の灯りを少し落として、
小さなランプをひとつ灯す。
お気に入りの音楽を低く流しながら、
湯気の立つハーブティーをカップに注ぐ。
それは、一日の“終わりの儀式”のようなもの。
今日がどんな日であっても、
静かに整えるこの時間があれば、
少しだけ心が軽くなる。
思い通りにいかなかったこと、
誰かに言えなかった言葉、
小さな後悔たちをそっと棚の奥にしまうように、
ひとつひとつ手放していく。
そして、代わりに思い出す。
朝のコーヒーの香り。
昼の光。
ふと目にした花。
そんな小さな幸せたちが、
今日という日を静かに支えてくれていたことを。
湯気がゆっくりと消えていく。
カップの中に残った温もりを、
手のひらで感じながら思う。
「大丈夫。また明日が来る。」
完璧でなくてもいい。
頑張りすぎなくてもいい。
今日を静かに終えられるだけで、
それはもう十分な幸せなのだと思う。
灯りを消す前に、
ひとつだけ小さくつぶやく。
――今日もありがとう。
そして静かに、
夜のページを閉じる。
おわり


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